生きていれば楽しく健やかに過ごせる日もあれば、いろいろなことに苛まれ、心がギュッと押しつぶされそうになる日もある。人生はとにかくままならない。だからこそ私たちは大切なことをしっかりと見つめ、かけがえのないものに胸を焦がし、狂わしき想いを抱きながら精一杯に日々を駆けていく――。
約2年2カ月ぶりに届けられたaikoのニューアルバム「最後に熱い日々を狂わしき想いで」。それは、聴き手の心と前へ進む足取りを軽やかに弾ませてくれる、心地よい躍動感に満ちた1枚となった。
「ものすごく大好きなアルバムになりました。今回、収録されているのはここ1年くらいの間にできた曲ばかりで、今年のツアー中に作った曲もあるんです。いろんなタイプの曲があるけど、ライブでの高揚感みたいなものを感じながら作れたことでアップテンポな曲が多くなった印象があります。だから自分で聴いても、すごく元気が出るんですよね。あっという間に最後まで聴き終えて、またすぐに最初から聴きたくなるというか。きっと自分自身がもっともっと上がりたい、アゲな気持ちになりたいという想いが強かったんだと思います。そういうモードがすごく出てますね」
アルバムの1曲目は、aikoが大きく息を吸い込み、柔らかな歌声を響かせるアカペラで幕を開ける「君の言う通り」。一瞬でaikoにしか紡ぎ出せない世界に引き込まれる、最高のオープニングだ。
「最初のアカペラはすごく緊張しました。レコーディングの段階でアルバムの1曲目にすることは決まっていなかったので、普段通りに歌うことを心掛けたんです。でもやっぱり緊張するから何度も何度も歌い重ねて。最終的に納得のいくテイクを録ることができました。最後の“ラララ”のパートはハモりをつけて、ちょっとホーリーなイメージを出したくて。その想いを受け取ってくれたアレンジャーの島田(昌典)さんがこっそりジングルベルのフレーズを入れてくれました。よーく聴くときっとわかるんじゃないかな。ちなみにこの曲は車に乗っているときにサビのフレーズが浮かんだんです。その時、自分がいる通りの名前がわからなくて。『ここって青山通り? 山手通り?』みたいな感じになったので、このタイトルにしました。『君の言う通り』という道の名前なんです(笑)」
アルバムからの先行楽曲として配信された「あなたの花の色」と「青春朱夏」は、共に人生における輝かしい瞬間を想起させる楽曲。せつない恋愛の物語を通して浮かび上がってくるのは、自らが輝く、自らを輝かせる時期は決して限定的なものではないということ。いつだって青春であるという想いをaikoは高らかに伝えてくれている。
「『あなたの花の色』の2コーラス目は、TVアニメ『アオのハコ』のオープニングテーマのお話をいただいてから書いたので、自然と学生時代の頃を思い出して、当時感じていた想いを込めていったところがありました。相手の気持ちに過敏になって、理解できなくて、意味がわからなくて、勝手に傷つくような時間を過ごしたイメージがあるけど、その時間は間違いなく青春でした。でも、青春の時期っていうのは年齢なんて関係なく、いつだってあるものだとも思うんです。いつでも青春ど真ん中、真っ最中にいる気持ちで生きていきたいなっていう想いを恋愛に重ね合わせて書いたのが『青春朱夏』です。阪急電鉄のキャンペーンに使っていただけたこともすごく嬉しかったですし、自分でもすごく気に入っている曲です」
「じんわりあたたかい気持ちが自分の中での“淡い”イメージ。幸せの同義語みたいな感じです。とにかくテンションが上がる曲なので、デモを録ってる段階から汗だくでした(笑)」という「淡い」や、“挫けたキスをする”というキラーフレーズが光るロックナンバー「グミ」、曲の冒頭でタイトルに繋がる設定が提示される斬新な詞世界に魅かれる「忘れ荘」は、今後のライブで会場の熱量を一気に高める楽曲として愛されていくことになるだろう。「この曲だけ2年くらい前に作りました。メロディの朴訥さが漢字を使わない歌詞を呼んでいたような気がしますね」という「あせとなみだ」は、ほぼ全編がひらがなのみで書かれた歌詞と、後半に向けて音が洪水のように溢れていくサウンドスケープがドラマチックな仕上がり。ゆったりとしたムードを持つ洒脱なサウンドの中、柔らかくチャーミングなボーカルを聴かせる「桃水色」は、aikoの新たな魅力を鮮やかに伝えてくれている。シングル曲「シネマ」「カプセル」「Cry High Fly」を含め、様々な景色と感情を呼び起こすバラエティに富んだ楽曲群の中、アルバムのタイトルに引用された強いインパクトを放つ“最後に熱い日々を狂わしき想いで”というフレーズを歌詞に持つ楽曲がある。それが「Darling」だ。
「この曲はツアー中、水戸のホテルで書いたんです。実際、窓の外で雪が降っていたので、“雪が降ると”という歌詞が出てきました。当初はサビの“ねぇDarling”という言葉で曲が終わっていたんですけど、デモを仕上げる段階でその後に何か加えたいなと思って。いろいろ考えていたときに、“最後に熱い日々を狂わしき想いで”というフレーズがメロディと一緒に浮かんだんです。よくよく考えると、“最後”って言ってるのに“日”じゃなくて“日々”だったりとか、ちょっとちぐはぐな感じがあるんですけど、それも自分らしいなと思ったというか。大切な人と向き合っているときも、ライブをやっているときも、自分はこういう気持ちで挑んでいるつもりなんです。常にこれが最後だと思うくらい狂わしき想いを注ぎ、それを未来に向けてどんどん更新していきたいんですよね。だから“日々”。年齢を重ねていく中、いろんな感覚が鈍くなったり、自制するようになってしまうじゃないですか。でも、それらすべてを脱ぎ捨てて、いい意味で狂わしい想いを持って音楽をやっていきたいです。そんな気持ちがこもったこのフレーズは、今回のアルバム全体にも似合うような気がしたのでタイトルにすることに決めました」
アルバムのラストに収められたのは、バラード「マイスイートピアノ」。長きにわたる音楽人生を共に歩んできた電子ピアノに向けられた、あたたかく感動的なラブソングだ。
「19歳くらいのときに買った電子ピアノをずっと使ってきたんですけど、ちょっと前に新しいのを買って、それで曲作りをするようになったんです。たまに前のピアノを弾いてみることもあるんですけど、今までと変わらず電源が入るし、音も鳴る。まったく壊れていないんです。その瞬間、なんだか“ごめんね”という気持ちになってしまって、それをきっかけにうわーっとこの曲を書きました。今までの人生の中で、この電子ピアノほど愛着を寄せたものって他になかったような気がします。40年以上一緒に過ごしたぬいぐるみもいるけど、それとはまったく違った感情……一緒にここまで歩いてきた、一緒に音楽をやってきたという感覚がすごく強いんですよね。曲ができて歌詞を読み返したときには思わず泣いてしまったし、レコーディングでもすごく感情を込めて歌うことができました。今までと変わらずそこに居てくれるピアノに対して、一瞬でもおざなりにしたことを絶対忘れるなよ、aiko!という気持ちから、アルバムの最後に入れることを決めました。この曲ができて、本当に良かったなって思います」
「私にとっての音楽は、自分を知らない場所に連れて行ってくれるもの。自分がいいなと思える曲ができたときは、それまで知らなかった新しい感動が生まれるんです。今回のアルバムにも、そういった感動を味わえた曲たちを入れることができたのがすごく嬉しいです」と、アルバムの手応えを飛び切りの笑顔を浮かべながら語ってくれたaiko。続けて、「そうやって作った曲たちをライブでやると、その想いがまた新たに更新されるんですよね。客席にいてくれるみんなの表情を見て、その時にしかない景色や空気を感じると、作ったときの感動を忘れるくらいの新しい感動が生まれるんです。みんなが新しい感動をくれるんです!」と想いを告げてくれた。
そう。11月からは、来年2月まで続くアリーナツアー「Love Like Pop vol.26」がスタートする。ライブが楽しみになる楽曲満載のニューアルバムを携えながら、aikoはまだ見ぬ新たな感動を迎えに全11公演を“狂わしき想いで”巡っていく。
「ツアーの中には2年連続となるカウントダウン公演もありますし、めっちゃ緊張します。“にげるなにげろいやにげるな”という気持ち(笑)。とにかく楽しいライブにしたいし、今までの自分自身を超えられるライブにもしたいです。新しいアルバムの曲はもちろん、いろんな気持ちになってもらえるように、いろんな曲が歌えたらいいなと思っています。頑張りますので、よろしくお願いします!」
文=もりひでゆき